2017.07.15
赤ちゃんクロウタドリのずさんな食べっぷりが、ときどき腹立たしくなることもあった。見ていると、クロスグリの茂みにとまって、とりわけ大きくて熟しきった実をつついては落としてしまう。そのゆくえを目で追いもせず、ましてや拾いに行きもせず、新たな実を狙うばかり。
これはいわばぼくらの"取り決め"に反する行為ではないかと感じた。ぼくは鳥たちにクロスグリを好きなだけ食べさせることにした。なのに、ちょっとかじっただけでうっちゃるなんて納得できない。
赤ちゃんクロウタドリはよく茂みの下の地面で、自分が落としたか自然に落ちたかした実に囲まれていたが、そんなものは眼中になかった。もっと食べたいとなれば、茂みに飛び上がって、新鮮な実を物色していた。「地べたから拾わなくったって、上にいっぱいなってるんだもん」などと考えていそうに思えた。
かじりかけの実を拾って、鳥用の水場に入れてみたりもした。赤ちゃんクロウタドリが水を飲むとき、目の前に実があったわけだ。それでも、眼中になし。
最近、雌のクロウタドリが茂みの下でせわしなく跳ね回っているところを見かけ、あるとき気づいた。なんとその雌が、落ちた実をぺろりと平らげているではないか。調停役現る!
同じ種でも雄と雌ではこんな点にも行動の違いがあることを、書き留めておきたくなった。ぼくにはあの雌が、赤ちゃんクロウタドリの"姉貴"に思えてきた。尻拭いをして、丸く収めてくれる存在として。
1970年、ロンドン東部のロムフォード生まれ。オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻。92年来日し、『ニューズウィーク日本版』記者、英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員を経て、フリージャーナリストに。著書に『「ニッポン社会」入門』、『新「ニッポン社会」入門』、『驚きの英国史』、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの<すきま>』など。最新刊は『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(小社刊)