三賢社

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Buatsui Soup | コリン・ジョイスのブログ

ある無礼な外国人のお話

2018.11.26

ぼくの評判が上がるような話ではないけれど、あえて語ろう。だいぶ前に埼玉県の高校で教えていたころ、友人でもあった同僚が、都内のおもしろい場所に連れて行ってくれるという。授業が早く終わる日だったので、友人の車で出かけた。向かった先は小石川植物園。

以来ずっと、そこに足を運んでは楽しい時間を過ごしてきた。そこは東京のちょっとしたオアシスだ。静かで緑濃く、興味ぶかい植物がいろいろと植えられている。けれど初めて訪れたときは、自分でもうまく説明しにくい理由から、文句をたれて台なしにしてしまった。原因は、なかに入るのに数百円払わなくてはならなかったこと。ぼくにとって(というか"あのころのぼく"にとって)、これは不当な話だった。

公園というものは無料のはずだと、ぼくは友人にごねた。ここは公園ではなく植物園だというのが、友人の弁だった。そう聞いても、どうにも気持ちがおさまらない。そこでぼくは論点を少々変えた。東京はひどく緑に乏しい大都会だ。わずかばかりの緑を拝むために金を払わなきゃいけないなんておかしい。この場所に限った話じゃない、新宿御苑だって、浜離宮だってそうだ……ロンドンには東京よりも公園がずっとたくさんあって、ずっと広いしきれいだし、しかも無料だと、ぼくは言い張った。

この記憶がよみがえったのは、お聞き及びのかたもいらっしゃるかと思うが、ある外国人が公園の入園料を求められて騒ぎを起こしたとかいう話がきっかけだった。もちろんぼくも、それがとんでもない行為だという見かたに賛成するけれど、いかんせん、思いもよらないことだと言えないのは、自分にも同じように"憤慨"した過去があるからだ。

神社の参拝料を求められて仰天したことも、べつの折に思い出した。ぼくは抗議の証しとして、ポケットのなかのありったけの小銭でもって払おうとした。「礼拝の場は無料でないとおかしいじゃないか」と、自分本位な若造のぼくは考えたものだ。

いまでは自分の論理のほころびが、はっきりわかる。維持管理の必要な場所が来場者からいくらか収入を得るのは、理の当然だ。皮肉な話、いまやぼくをむっとさせるのはロンドンの一部の名所で、それはバカ高い入場料を取るからだ。セント・ポール大聖堂は日光東照宮よりも入場料がかなり高いし、ロンドン塔も姫路城よりずっとかかる。キュー王立植物園に至っては、1回の入園料で東京のあらゆる有料の庭園に入れるんじゃなかろうか。

ぼくのエピソードの何が恥ずかしいって、友人に見せた態度の悪さと、それを謝らなかったことだ。ぜひとも謝りたいところだが、もうだいぶ前に連絡が途絶えてしまった。先生ごめんなさい、自分では見つけられないようなところに連れて行ってくれてありがとう。

連載
コリン・ジョイス Colin Joyce
コリン・ジョイス
Colin Joyce

1970年、ロンドン東部のロムフォード生まれ。オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻。92年来日し、『ニューズウィーク日本版』記者、英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員を経て、フリージャーナリストに。著書に『「ニッポン社会」入門』、『新「ニッポン社会」入門』、『驚きの英国史』、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの<すきま>』など。最新刊は『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(小社刊)