スズキ目フエダイ科
秋田県や茨城県でも発見されている。相模湾などでも揚がるが、主に紀伊半島・長崎県以南に生息している。
★ | 条件が揃えば高級魚 |
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★★ | 高級魚 |
★★★ | 超高級魚 |
☆ | 高級魚の凡人 |
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☆☆ | ほぼ達人 |
☆☆☆ | 高級魚の達人 |
屋久島以北の日本列島、朝鮮半島や中国大陸沿岸の浅い砂地に生息しているが、国内では北に行くほど生息数は多い。 全長一メートル前後になる大型魚で、口が非常に大きいのは小魚などを襲って食べる肉食魚だからだ。 実は「ひらめかれいに違いはない」という話から。今や「ひらめ」はヒラメ科の魚のことで、「かれい」はカレイ科の魚であるが、昔はそんな決まりはなかった。 ヒラメを含むカレイ目などを異体類いたいるいという。異体類、すなわち他の魚と異なる体の類とは、目が左右どちらかに寄り、左右に極端に平たくなり、左右どちらかを上に向けて生きる道を選んだ魚たちのことだ。 これらすべてを江戸時代は「かれい」としていた。「比目魚ひらめ」はその一種として存在していたが、標準和名のヒラメなのかはわからない。 要するに、標準和名のヒラメは東京に近代魚類学の中心があったときに、日本橋の魚河岸で使っていた呼び名を標準和名としたものでしかない。 近代魚類学の父、田中茂穂は「東京及び其附近ではヒラメと云うが、日本全國に亘って驗しらべて見るとヒラメの言葉を使う地方は他に殆どなく」と書いている。 鮮魚の流通が始まった明治後期からじょじょに国内最大の消費地、東京での呼び名、ヒラメが全国に行き渡り、その地にあった呼び名を駆逐していく。それでも「かれい」と呼ぶ地域は残っている。山形県庄内地方の「まがれい(真がれい)」、新潟県新発田の「おおがれい(大鰈)」などだ。なぜか北海道では「てっくい」というが意味不明である。 「左ヒラメの右カレイ」は東京の俗語だが、これがヒラメ科、カレイ科に当てはまる。 生まれたときは普通の魚の姿だが、成長につれてカレイは左目が右に移動、ヒラメは右目が左に移動してくる。 カレイ科の食用魚は多いが、ヒラメ科の食用魚は非常に少ない。ヒラメ科の食用魚にはタマガンゾウビラメ、ガンゾウビラメ、メガレイ、テンジクガレイなどがいるが、ほぼ流通に乗ることはない。 ちなみにタマガンゾウビラメは瀬戸内海などで「でべら」、「ひがれい(干がれい)」などと呼ばれて、ぺったんこの干ものになる。なかなかあなどれぬ味ではあるが、原料にまでたどれたら、あんたはウルトラE級に偉い。 江戸前、東京で冬の白身といえばヒラメである。例えば肌寒の候になり、小物屋(豊洲市場ですしダネなどを扱う)で、白身一本というと活魚のヒラメを一尾ということになる。ほかの魚も白身だけれど、「白身代わりに」がつく。「白身代わりにマダイ」とか、「白身代わりにトラフグ」とかだ。 ここまで東京でヒラメ依存度が高いのは、もちろん江戸前、東京湾でもとれたからだが、一大産地である、常磐(福島県、茨城県、千葉県北部あたり)が近いからだ。これがじょじょに三陸、青森、北海道と北に産地が広がる。何度も述べているが東京は魚介類を北に大きく依存しているのだ。 中部、関西などではここまでヒラメ依存度が高くない。フグやハタ(クエやマハタ)もあるし、マダイの存在感も大きい。ヒラメはやはり江戸の魚で、その影響が関東全域にまで広がっている、というとわかりやすいのではないか。 今は昔の話、「冬は白身の豊かな時季」などと言われたが、実はヒラメがたくさん揚がるからであって、種類が豊富なのではない。 関東周辺でも秋になるとヒラメの刺し網漁などが始まり、師走になると漁獲量が増えてくる。 面白いものでカレイ科の魚は産卵期が近づくと味は落ちる。ヒラメは春から初夏の産卵期を控えて身がふくらんで脂がのり、うま味も豊かになる。 だから東京では「夏カレイ(主にマコガレイ)、冬ヒラメ」なのだ。 さて、浦島太郎の唄ではないが、「タイやヒラメ」は高級魚の代表的なものである。ただ養殖というものがその価値観と季節感を変えてしまった気がする。養殖ものは年間を通して食べられ、ちょっと高めだが回転ずしでも食べられる。 回転ずしでは、高くても安定供給できるものは、安定的な利潤が生まれるので使うことができる。 天然ヒラメは高級なものと、野締め(漁の間に死んでしまった)の安いものがあって中間がない。天然ものは価格が安定しないし、料理人や卸の目利きが物を言う。中間に当たるのが味は保証付き、まるで工業製品的な養殖魚だと思うといい。 季節のない養殖魚と天然の上物を食べ比べてもらうと、養殖魚が好きな人が多いのに驚いたことがある。養殖ものの方が、脂がのっているからおいしい、と言われると、提供側はぐうの音も出ない。個人的意見ながら、季節感は大切だし、アタリハズレがあるのも結構だと思うが、いかがだろう。 さて、養殖ものは全国一律に食べられているが、天然ものは関東がいちばんよく食べている。 特に東京のすし職人が長年愛して止まないのが常磐ものである。例えば寒い時季、常磐もので活魚なら超高級魚である。 ちなみにヒラメ、カレイは活魚が非常に高く、活け締めは高いには高いが平凡な高級魚、野締めはとても安い。 ヒラメは嫌みのない上品な白身で、どのような料理にしてもうまいが、なんといっても刺身で食べるのが基本。それも活魚がいい。 体幹部(上身)の刺身も非常にうまいが、平べったい体の周りを取り囲む鰭を動かすための鰭筋が格別の味だ。これを人は「縁側」というが、もっとええ名なかったんかいな、と思う。 豊洲などの仲卸は水曜日と日曜日が基本的に休市(市場と仲卸などの休日)だが、ヒラメ(夏はマコガレイ)だけは生かし込んでおき、常連のすし店などに配達するという仲卸が少なくない。 すし屋にとってマグロが金看板なら、ヒラメは店の屋台骨のようなものだろう。関東では冬にヒラメがないでは暖簾が出せないのではないか。 さて、余談になるが関東で本種は成長するに従って呼び名が代わる出世魚だ。一キロ以下を「そげ」、一キロ以上二キロ以下を「大そげ」、それ以上を「ひらめ」という。 六月、七月になると、「ひらめ」の値段は暴落する。市場人は「払った(産卵)後は猫またぎ」などという。それまで野締めでもそれなりの値をつけていたものが、一キロあたり数百円、例えば大ビラメ十キロが二千円で買えてしまったりする。味は値段通りでとても刺身では食べられない。 市場でも誰か買ってくれませんか、などと仲卸が嘆く。 その六月から七月いっぱい矢鱈にうまいのが、ヒラメの若魚「そげ」である。 この「そげ」の刺身のうるわしき味、意外に知らない人がいてビックリする。決して安くはないが、季節限定の味なのだから無理しても食べてみて欲しい。 多くの魚に季節感が失われている今、ヒラメにはまだまだ季節感がある。「そげ」の旬が終わり、「ひらめ」到来を待つ、これぞ人間らしさやおまへんか? ※これは未校正、完成した原稿ではありません。 「ヒラメの縁側、うん、うまにゃん!」
イラスト・にい きよ
徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)生まれ。ウェブサイト『ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑』主宰。40年にわたり、日本全国で収集した魚貝類の情報をサイトにアップし続けている。『からだにおいしい魚の便利帳』(高橋書店)、『ぼうずコンニャクの全国47都道府県 うますぎゴーゴー!』、『すし図鑑』、『美味しいマイナー魚介図鑑』(ともにマイナビ出版)、『イラスト図解 寿司ネタ1年生』(宝島社)など著書多数。