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Buatsui Soup | コリン・ジョイスのブログ

"ご褒日"の考えごと

2017.05.27

きのうは朝から雨が降ったりやんだりだったけれど、午後は晴天に恵まれて、ぼくの言葉で言うなら"ご褒日"になった(晴れるなんて思いもよらなかったから)。この時期のイギリスは日没までが長い――午後8時でもまだ日が出ている――だから、足の向くままに長い散歩に出ることにした。

コーン川に行きあたり、ふと思い立って右手のウィヴンホー方面に向かった。いつものように左折して、街のほうへあっちへ曲がりこっちへ曲がりしていけば、どこで散歩を打ち切っても自宅までそう距離はない。ウィヴンホーの方角に進むと、家からどんどん遠ざかってしまう。けれど、散歩にはそっちの道のほうがすてきだし、せっかくの"ご褒日"なのだから、ふだんとは少し違うことをしてみたかった。

道すがら、ひたすら思いを巡らしたことがある。前日にこの道沿いで、エセックス大学の女子学生の遺体が発見されていた。ぼくはそのできごとを新聞で知った。警察の「不審な状況は見受けられない」というコメントは、自殺を暗示する決まり文句だ。生きる喜びを心から感じていた日に、ぼくはたまらない気持ちになった――前途ある若い命が痛ましくも断たれ、残された家族や友人の悲嘆が一生続くことを思って。

近年、鬱などの心の問題をめぐるタブーを打ち破るすばらしい取り組みがなされ、とりわけ英王室の若手メンバーの活動が目立つ。先月はハリー王子が、幼くして母のダイアナ妃を突然失ったことでカウンセリングを受けたと明かした。

ウィリアム王子とキャサリン妃も、この問題について折に触れて率直な意見を述べ、数々の画期的な発言をしている。先月は、夫妻がハリー王子とともに立ち上げたメンタルヘルスの啓蒙キャンペーン"Heads Together"の宣伝のために、(若い人たちに人気の)BBCラジオ1に生出演した。番組DJのアデル・ロバーツが、メンタルヘルス問題への意識の向上と募金を目的に、"Heads Together"チームのランナーとしてロンドンマラソンに出場する予定だったからだ。

夫妻はまじめな話題に終始することなく、インタビューに答えて、デリバリーのカレーを頼むこともあるが車で取りに行ってもらうはめになるという話までしていた。ケンジントン宮殿への配達を頼んだら、いたずら電話と思われかねないからだそうだ。

ケンブリッジ侯爵夫人キャサリンは、特に若い女性をむしばみ、命の危険すらある拒食症などの摂食障害について発言してきた。そして産後鬱についても。

もちろん慈善団体や保健機関も、こういう心の問題について長年りっぱな取り組みをしてきた。だが、王室の人間や有名人からの支援や励ましのおかげで、この問題に関するメッセージが広く認識されるようになっている。

ぼくの街で亡くなった大学生がどんな状況にあったのかはわからないが、じつに4人にひとりは生きる過程でなんらかの心の病にかかるという。この世の重圧に押しつぶされそうな思いをする人は、たくさんいる。ぼく自身にもそういう経験があって、洞察力に優れた医師の手助けと、友人からの感謝のしようもないほどの支えがなかったら、切り抜けられたかどうかわからない。

鬱や心の病は、恥じるようなことじゃない。だいじなのは、追い詰められたら助けを求めること。そういう助けは得られてしかるべきものなのだ。心の病で死ぬようなことがあってはならない。

連載
コリン・ジョイス Colin Joyce
コリン・ジョイス
Colin Joyce

1970年、ロンドン東部のロムフォード生まれ。オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻。92年来日し、『ニューズウィーク日本版』記者、英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員を経て、フリージャーナリストに。著書に『「ニッポン社会」入門』、『新「ニッポン社会」入門』、『驚きの英国史』、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの<すきま>』など。最新刊は『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(小社刊)