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Buatsui Soup | コリン・ジョイスのブログ

よみがえる"ニューズウィークの呪い"

2018.07.25

ジャーナリストとして駆け出しのころの体験に、1997年のできごとがある。ニューヨークの『ニューズウィーク』誌本社で働いていたときのことだ。同誌が長寿をテーマに巻頭特集を組み、その目玉に"歴代最高齢"のジャンヌ・カルマンのインタビューを据えた。木曜日に印刷に回して、翌週の火曜日に店頭に並ぶという段取りだった。カルマンは発売週の月曜日に死去、122年と164日の生涯を閉じた。ジャーナリストといえばダークなユーモア精神というわけで、ぼくらは自分たちがカルマンになんらかの呪いをかけたのだと言い合った。

以来ぼくは、そういうことはあるものだとかなり意識してきた。思い出すのは2013年のはじめにエリザベス女王についてのエッセイを書いていたときのこと、その話を収めた本が丸1年は世に出ない予定だったので、不安を覚えていた。「本が出るまでいろんなことがあるぞ」と、ぼくは思った。「もう86歳だし……」だが女王は御年92歳、お健やかでいらっしゃるようだ。

歌手のヴェラ・リンの話を書いたときも不安だった。2011年に著書の『「イギリス社会」入門』で扱った"戦中世代の最後の偶像"。当時ヴェラ・リンが93歳だったので、いつ逝ってもおかしくない、ぼくの話があっというまに古びてしまいかねないと思っていた。1年後に英語版も出版され、ぼくはまたもや気をもんだ……。そしてリンは今年101歳。

というわけで、ぼくは"ニューズウィークの呪い"の逆を行っているようだった。ぼくが誰かの話を書くと――どれほど年を取っていても――その誰かの寿命が延びるわけだ。

『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』の出版を境に、それがどうも一転したようなのだ。ぼくはこの本で、オックスフォード卒のあまたの伝説の人物を取り上げている。発売から数週間のうちに、50年間にわたり余命わずかと言われながらも、みごと老年まで生きながらえていた偉大な理論物理学者、スティーヴン・ホーキング(元学部生)が76歳で亡くなった。続いてオックスフォード大学の元陸上選手として名高いロジャー・バニスターが、86歳で死去。オックスフォードで学んだ数々の国家元首のなかで、たまたま同書で挙げたペドロ・パブロ・クチンスキは……ペルー首相の職を辞するはめになった。先週はボリス・ジョンソンが――著名な"ブレギジター"(EU離脱派)の元ロンドン市長としてふれた人物が、外相を辞任したばかり。

次は誰なのだろう。テリーザ・メイ、オルバーン・ヴィクトル、アウン・サン・スー・チーあたりか……

連載
コリン・ジョイス Colin Joyce
コリン・ジョイス
Colin Joyce

1970年、ロンドン東部のロムフォード生まれ。オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻。92年来日し、『ニューズウィーク日本版』記者、英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員を経て、フリージャーナリストに。著書に『「ニッポン社会」入門』、『新「ニッポン社会」入門』、『驚きの英国史』、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの<すきま>』など。最新刊は『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(小社刊)