2016.06.06
岡崎慎司は、イングランドでまぎれもなく偉大な選手とみられている。
こんなことを書くのは、日本のメディアが外国でプレーする日本人選手を持ち上げすぎて、彼らがもたらしている影響を大げさに伝えることがあるためだ。岡崎の場合、それは当てはまらない。彼はイングランドでも本物だ。
見方によっては、これは驚くべきことだ。岡崎には選手として欠点もあるからだ(詳しくはのちほど)。
岡崎の人気の理由は、ぼくが思うに、次のような点だ。
第一は、そしてこれが最も重要な点だけれど、彼が偉業をなしとげたチームの一員であることだ。同じ堅実なプレーをしても、チームが5位や12位だったら、あるいは2位に入っていても、岡崎慎司の名がこれほど知られ、称賛されることは到底なかった。岡崎は自分だけの力で偉大な選手の座を手にしたわけではない。彼は「あのレスターの岡崎慎司」なのだ。
第二に岡崎は、ピッチの中で本当に一生懸命プレーする。ファンは試合を見るために安くない金を払い、サポートしているクラブには猛烈に感情移入する。スタジアムにいるファンは愛するチームのために1度はプレーしたいと考える。プレーしている自分を本当に夢に見てしまう人もいる。だからファンは怠けている選手は嫌いだが、「作業量」の多い選手は称賛するし、彼らにはとても寛容だ。
この点が岡崎には重要だ。彼はパスがすばらしいというわけではなく、ボールを奪われることがちょっと多く、キープ力がとても高いわけでもない。もっと大きな弱点もある。ストライカーでありながら、あまり点を取らないということだ(ここにあげた以外の点は、とてもすばらしい)。
しかし岡崎が人気のある第三の理由は、もっとゴールをあげる必要があることを彼自身が真っ先に認めていることだ。岡崎が「素直」だというだけの話ではない。自分に欠けているものを知っている選手は、進んでなんとかしようとするから上達していくことを、ファンは知っている。批判されて腹を立てたり、まわりのせいにするタイプの選手(「自分のやりたいポジションじゃないから」「いいボールが来ないから」「ほかの選手が足を引っ張るから」)を、ファンは嫌う。そういう選手は自分の問題を解決するために努力しないことも、ファンは知っている。
第四に、岡崎はサッカーが大好きなようにみえる。ゴールを決めたとき、彼は本当にうれしそうだ。あるファンは「彼は顔がはちきれそうに笑う」と書いた。
親しみのもてる表情というだけでなく、もっと深い部分に触れるものがある。もしファンが愛するクラブのユニフォームを着てプレーできる世界があったら、ゴールを決めたファンはこんな笑顔になるはずだ。
岡崎はチームのゴールも喜ぶが(ゴールを祝福するためにみんなのところへ来る)、自分がゴールを決めると最高にうれしそうだ。まったく当然で自然な反応だ。
カッコをつけたがるスーパースターたちと比べてみるといい。背中に書かれた自分の名前を指さしたり(「俺の名を叫べ! 俺がいちばん偉大だ!」)、ユニフォームを脱いだり(「この完璧な体を見て、俺を崇拝しろ!」)、さらには相手のファンに向けて、唇に指を当てた「シッー!」というポーズをとったり(「俺はおまえらを黙らせた、凡人どもめ」)。
もしゴールを決めたあとの岡崎の反応を言葉にするなら、「万歳! 点をとったぞ! 俺たちに万歳!」だろう。
慎司に万歳! ぼくたちもきみと一緒に笑おう。
1970年、ロンドン東部のロムフォード生まれ。オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻。92年来日し、『ニューズウィーク日本版』記者、英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員を経て、フリージャーナリストに。著書に『「ニッポン社会」入門』、『新「ニッポン社会」入門』、『驚きの英国史』、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの<すきま>』など。最新刊は『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(小社刊)