2017.01.22
レスターは昨シーズン、信じがたいほどの快進撃で優勝を遂げた。落としたのは38試合中3試合のみ。このブログを書いている今は――降格すれすれの――リーグ15位、すでに(21試合中)10試合を落としている。
何がいけなかったのだろう?
まず、何がいけなくなかったかが興味ぶかい。つまり"ビッグクラブ"に優秀なプレーヤーを根こそぎ引き抜かれはしなかったことだ。優勝に貢献したプレーヤーはというと、ちゃんと残っている。マフレズ、シュマイケル、モーガン、フート、(アーセナルの誘いを断った)ヴァーディ。カンテがチェルシーに移ったくらいだ。
だからちょっとした謎ではあるが、理解を超えたなりゆきというわけではない。レスターのファンには申し訳ないが、リーグ1位よりは15位のほうがレスター本来のありかたに近い。ぼくはレスターがもう少し順位を上げると見ているし、降格の危機にあるとまでは考えづらいが、シーズンの開幕前でさえ、レスターが4位までに食い込むなどという予想はほとんど聞かれなかった。昨シーズンは不測の事態が続いた。強敵が軒並み不調に陥り、レスターは我が世の春を謳歌した。みごとなプレーではあったが、思いもよらないできごとの数々が味方しなかったら、レスターの優勝はなかった。
今季のレスターは、チャンピオンズリーグという歓迎すべき"厄介ごと"を背負い込んでいる。ヨーロッパの強豪との対戦と並行して、過酷なプレミアリーグでの戦いを続けるには、怪我や疲労による選手の入れ替えのために、優秀なプレーヤーを数多く擁していなくてはならないとされている。かなりの補強なくしては、レスターがなんらかのつけを払うことになるのは目に見えている。国内では惨憺たるありさまなのに、ヨーロッパでは大健闘していることには唖然とさせられる。チャンピオンズリーグではグループを首位通過した。一般常識で言うと、ヨーロッパの大会には"テクニックに秀でた"プレーヤーが必要であるのに対し、プレミアリーグでは"フィジカルが強い"プレーヤーがいればやっていけるとされる。だがこれまでのところ、今シーズンのレスターはプレミアリーグよりもヨーロッパでのほうが(明らかに楽なグループでの話だが)"まし"なのだ。
結局のところ、プレミアリーグでの連続優勝はまれだ。優勝への奮闘のせいで、次のシーズンが始まる前からチームが疲弊しがちなところにもってきて、ライバルチームが雪辱を果たそうと必死になり、巻き返しを図る諸監督が自軍の補強を行なうからのようだ。口にするのもくやしい限りだが、アーセン・ヴェンゲルのアーセナルが大魚を逸した例がこれだ。アーセナルは(1シーズンにFAカップとプレミアリーグで優勝する)"ダブル"を達成し、プレミアリーグでシーズン無敗の記録を残したかもしれないが、それほど偉大なチームをもってしても2年連続のリーグ優勝は成らなかった。
レスターが今季もリーグ優勝を狙う位置にいたら、それこそほんものの謎だっただろう。
1970年、ロンドン東部のロムフォード生まれ。オックスフォード大学で古代史と近代史を専攻。92年来日し、『ニューズウィーク日本版』記者、英紙『デイリーテレグラフ』東京特派員を経て、フリージャーナリストに。著書に『「ニッポン社会」入門』、『新「ニッポン社会」入門』、『驚きの英国史』、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの<すきま>』など。最新刊は『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(小社刊)