2020.08.26
この7月から8月にかけて、新宿末廣亭、上野鈴本演芸場、池袋演芸場、浅草演芸ホールに行ってみた。新宿は7月上席昼の部の三遊亭笑遊師匠の芝居、上野は7月下席昼の部の橘家圓太郎師匠の芝居、池袋は7月下席昼の部の古今亭菊志ん師匠の芝居、浅草は8月上席昼の部の三遊亭小遊三師匠の芝居(大喜利にデキシーバンド「にゅう・おいらんず」演奏あり)だ。夜の部にも気になる芝居はいくつもあったが、今は帰宅して家族の夕食の支度をすることにしている。
それぞれ顔付け(出演者のこと)も良く、ふだんの年ならば平日でも大入り間違いなしの芝居と見えたものが、今年は気の毒なほど空いている日もあった。
そのぶん、いいこともある。代演(出演予定の人が他に用事ができて代わりの人が出ること)や入れ替え(出番の入れ替え。昼に出るはずの人が夜の部に入れ替わることもある)は少ないし、わざわざ来てくれたお客さんを楽しませようと、出演者が日頃以上にていねいに落語や色物芸を見せてくれるのだ。
わりと早い時間に出てくる師匠方が、夏らしい噺を15分ほどでサラリと聞かせてくれることもある。三遊亭萬橘師匠の「うなぎや」(新宿、7月7日)、柳家さん喬師匠の「千両みかん」(上野、7月28日)、五明楼玉の輔師匠の「お菊の皿」(同左)、瀧川鯉昇師匠の「馬のす」(浅草、8月6日)などが、まさにそんな味わいの落語だった。
寄席の番組は、どこかコース料理にも似ていて、トリの師匠の落語がメインディッシュだとすれば、前菜やスープ、ポワソン(魚介の皿)やソルベ(口直しのシャーベットなど)の役割の師匠もいる。トリの落語が楽しみなのはもちろんだが、途中、味わいは軽めだが奥行きのある落語を聞くと、それはそれで印象に残る。
落語好きにもいろいろな好みがあるので押し付けはしないが、こういう落語に出会うことができるのが、寄席の贅沢だと私は思っている。
8月も半ばを過ぎると、そろそろ秋のネタも登場してくるだろう。「目黒の秋刀魚」「安兵衛狐」「長者番付」あたりはトリネタにもなるし、中盤にも出てきそうな秋のネタ。
なお、各席ではガイドラインを受けて、入場時に検温・アルコール消毒があり、観賞中のマスク着用を義務付け、入場者数の制限もしている。ほかに、ふだんとは違うルールを設けているところもあるので、そこを中心にまとめておく。
上野鈴本演芸場は、場内の売店は当分営業休止。ソフトドリンク自販機はある。持ち込みは水やソフトドリンクのみOKで、食べ物やアルコール類は持ち込みは禁止。また、観賞中の食事・飲酒は禁止。喫煙は所定の喫煙所で。定員は140人。
新宿末廣亭は、場内の売店は当分営業休止。ソフトドリンク自販機はある。持ち込みは水やソフトドリンク、軽食類(おにぎり、サンドイッチ程度)まで。場内禁酒。禁煙(換気のため喫煙所を閉鎖している)。上限は160人。
浅草演芸ホールは、売店でアルコール類、お菓子などを販売しているが、閉じている時間帯もあるので入場前に確認するといい。ソフトドリンク自販機はある。喫煙は所定の喫煙所で。上限は165人。
池袋演芸場は、場内の売店は当分営業休止。ソフトドリンク自販機はある。持ち込みは水やソフトドリンク、軽食類(パンなど)まで。場内禁酒。喫煙は所定の喫煙所で。上限は39人。
上野鈴本演芸場は当面、観賞中は禁酒で弁当などの持ち込みも禁止。新宿末廣亭は当面、喫煙所を閉鎖しているので禁煙。ふだんと大きく違うのは、このあたりか。
柳家さん喬師匠「千両みかん」を聞いた日の顔付け
1961年東京生まれ。出版社勤務からフリーランスに。編集者、伝記作家。著書に『寄席の底ぢから』(三賢社)。落語は好きで、DVDブック『立川談志全集 よみがえる若き日の名人芸』(NHK出版)や、『談四楼がやってきた!』(音楽出版社)の製作に携わる。ほかに水木しげる著『ゲゲゲの人生 わが道を行く』、ポスターハリスカンパニーの笹目浩之著『ポスターを貼って生きてきた』、金田一秀穂監修『日本のもと 日本語』などを構成・編集。